Asanaで実現する組織的知識創造 - カスタマーサクセスチームの実践と洞察

はじめに

Asanaコミュニティの皆さん、こんにちは。Asana Japanのカスタマーサクセスチームの刈屋と申します。カスタマーサクセスチームは、Asanaを導入いただいたお客様の定着支援を行っております。私個人でのAsana歴としては、Asanaのロゴがまだ青かった2013年に自分のタスク管理のために利用を開始しました。そこから、Asana以外の別の方法も試したりもして断続的な利用ではありましたが、優れたUIやコンセプトからずっと好きなツールであり続けて、いつかAsanaで働いてみたいと思い続けていました。そして、2社でカスタマーサクセス職の経験を積んだ後に、2021年6月に念願叶ってAsana Japanに入社して現在に至ります。
<2013年6月13日に届いたAsanaからのメール>


("Ready to Do Great Things?"ってメッセージ、ワクワクしますね)

今回は、アドベントカレンダーの機会を借りてAsana Japanのカスタマーサクセスチームが取り組んでいるある実験的な取り組みをご紹介します。Asanaの私たちもこの投稿を読んでくださる皆様と同じように、ユーザーとして日々の仕事を"どうすればもっと効率的なものにできるのか、どうすればもっと楽しく仕事ができるのかと日々試行錯誤を重ねています。この記事では、Asana社内での取り組みから得られた知見を共有し、皆様のAsana活用のヒントとしていただければ幸いです。

カスタマーサクセスの仕事

まず、カスタマーサクセス(CS)の仕事について紹介します。カスタマーサクセスとは、SaaS等のサブスクリプションモデルのビジネスにおいて、導入された製品の活用を促進し、目標としていた導入効果の実現を支援することをミッションとしています。通常、カスタマーサクセスマネージャー(CSM)は自分の担当するアカウントを十数社持ち、契約開始から更新までを一つのライフサイクルとして管理します。その業務の性質上、いくつかの課題が存在します。

まず第一に、業務の属人化が挙げられます。各CSMは担当の顧客リストを持ち、各自の裁量と判断で顧客の成功に向けてのアクションを取ります。各CSMは自身のスプレッドシートやメモで管理をすることが多く、ナレッジやノウハウが各CSMに閉じてしまいがちになる傾向があります。

次に、1年間、あるいは複数年というサイクルで管理をするため、多くの顧客を継続的に支援しなければならないという点があります。AsanaではCRMツールを利用していますが、アカウントページがドメイン単位になっているため、情報の整理が難しいという課題があります。Asanaの契約は一つのメールドメイン下に複数の契約が作られることが多く、各契約は全く関連しない別部門や子会社のものであったりするため、CRM上でアクションの履歴を適切に整理された状態で残す方法を見いだせずにいました。

最後に、状況に合わせて柔軟に動き方をチームとして変化させなければならない点が挙げられます。競合他社の動向や自社の製品のポジショニングに合わせて求められるアクションや訴求すべきバリューが変容することが頻繁にあります。かつて私が在籍したソフトウェア会社では、CSの評価指標が四半期ごとに大きく変わるということが当然のようにありました。指標以外にも、各CSMが感じたり聞いたりした市場からのフィードバックも考慮しなければなりません。言わば常に考えながら走り、絶えず軌道修正をチームで行う必要があるのです。

このようなCSMの業務に特化した優れたソフトウェアも市場に存在しますが、残念ながら今のところAsanaでは導入されていません。いつかグローバルで共通の素晴らしい方法が考えられ、それが展開されれば素晴らしいのですが、日々の業務は待ってくれません。そこで、私たちは自社ツールであるAsanaを用いてプロジェクトで管理をしてみようと考えました。

Asanaプロジェクトの立ち上げ

着想は、私が過去の会社で使っていたCSM用のツールからでした。このツールでは、契約ごとにページが用意され、プロダクトの利用状況のデータが反映され、様々なシナリオに合わせて担当CSMにアクションを促すCTA (Call to Action)という機能がありました。これを模倣する形で、以下のような手順でプロジェクトを作成しました:

  1. BIツールを用いて契約の一覧をCSVエクスポートし、Asanaにインポートする
  2. 各契約は1タスクとして取り込む
  3. ダッシュボードへのリンク等の情報をカスタムフィールドに格納する
  4. 更新日を期日とする
  5. 担当CSMを担当者としてアサインする
  6. ルールを用いて、更新日の接近に応じてサブタスクを追加する

<作成したプロジェクトのイメージ>

<使用しているルールの例>

作成されたタスクを用いて、担当CSMは以下のようなことを行います:

  • 利用状況の確認のサブタスクのタイミングで、対象の契約の利用状況をダッシュボードで確認し、気づきやメモを親タスクにコメントで残す
  • MTGのメモをコメントで残す
  • 関係者をアットメンションで追加し、コメントで会話する
  • アクションアイテムをサブタスクに入れる
  • 順調に進捗しているかどうかのステータスをカスタムフィールドで示す

これにより、コメントは時系列で上から下に追加されていくので、過去の時点ではどのようなアクションを取っていたのか、どのような認識でいたのかを遡って辿ることができます。また、データとコメントを照らし合わせて見ることで、グラフの推移でしか表現されないデータの向こうの現場で実際に起こっていたことを明らかにすることができます。コメントの書き方はフォーマットを指定せず、各CSMが考えたことを自由に記述できるようにしました。この自由記述形式を採用した点に関しては、でたらめな印象を持たれる方もいるかもしれません。それでも敢えて自由な形を取った理由は、まずは担当者の負担を減らすということと、もう一つの理由として担当者の感覚や勘を重要視したかったためです。どのプロジェクトでも同様だと思いますが、うまく言葉で表現できない不安感がよぎることがあります。その不安感は、会議に持ち込んで共有できるほど理路整然としたものではなく、明確なリスクとして表出するまでは「ヤバい」や「嫌な予感がする」というような曖昧で感覚的な表現でしか表されません。こういった表現を許容することが、各現場の担当者の暗黙知を引き出すことにも繋がるのではないかと考えました。そして、各メンバーは自分の思考の整理のために誰かをアットメンションするのではなく自由にほぼ「独り言」のような形でコメントを残すようになりました。。

このような形で、Asanaをカスタマーサクセスツールとして使う実験的な運用が始まりました。

プロジェクトを実施して得られた変化

この実験的なプロジェクトを2023年8月に立ち上げて以来、この記事を書いている2024年11月で15ヶ月が経過しました。ここでは、このAsanaを使って日々のカスタマーサクセス業務の管理を行うことで得られた発見を紹介します。

情報の集約と共有

このプロジェクトの運用を始める前は、契約単位での情報の整理の明確なルールがなく、細切れになったタスクが一貫性なくAsanaの中で作られ続け、情報の集約に苦慮することがありました。ちょっとした情報やメモを残しておける場所ができたことで、情報の集約性と検索性は格段に向上しました。同時に関係者をコラボレーターを追加することで過去のコンテキストも含んだ情報の共有が容易になりました。

タスクを使ったタイニーステップ

期日からの逆算に基づくサブタスクで作成している利用状況のモニタリングのアクションの内容は、ほんの2~3分で済むような内容ですが、これは対象の顧客について意識を向けるためのきっかけとして機能しています。Asanaの社内には担当アカウントの利用データを一覧で見るダッシュボードがありますが、その全体を眺めるという行為と実際に個別の顧客の利用促進のためのアクションを考えるという行為には私たちの脳の処理上の大きな壁があるように感じていました。一方で、担当の契約リストで上からアクションプランを考えていくということは継続性のある取り組みとは言えません。そのため、タスクが、毎日のうちのほんの10分〜15分を利用状況のモニタリングに向けるきっかけとなれば、一週間で50分以上の集中力が高い状態で利用状況の確認とネクストアクションの検討に時間をかけることができるようになりました。

属人化の解消

各CSMはこのプロジェクトのタスクを使って、自分の考える必要なネクストステップをサブタスクとして追加するようになりました。優れた同僚がどのように考え、次にどのようなアクションを取る予定で、どのように全体方針を描いているか、それがどのような結果に繋がったのかということを辿ることができるようになりました。情報の属人化を防ぐのみならず、ノウハウや苦労、失敗までも共有できている状態を作ることができました。これは担当者の孤独感の緩和にも繋がっていると思います。時間的な効果としては、チーム内で情報共有のMTGをほとんど設けないにも関わらず情報の共有度を高いレベルで維持できるようになりました。

現実解としてのAsana活用

ここまではではポジティブな効果を紹介しましたが、正直な感想として、必ずしもうまく行かなかった点も共有したいと思います。Asana社員としてこう言ってしまうのは良くないかもしれませんが、決してこのプロジェクトの運用自体が完璧なものであるとは思っていません。具体的な課題としては以下のようなものがあります。

  • 契約データの取り込みをCSVで都度行わなければならず、それによる人為的な漏れが発生する
  • 一度取り込んだデータが自動で最新の状態にアップデートされない
  • 携わるメンバーがAsanaに習熟していなければ、運用が成立しない

できていない点を見れば、完璧どころか欠陥だらけの仕組みだと思われても致し方ありません。実際に、Asana社内でも至らない点を指摘されることが何度かありました。

しかし、考えてみてください。仕事は日々動き続けるものであって、完璧なツールができ上がるのを待ってはくれません。同時に、変化の激しい世の中では作り上げたものはすぐに陳腐化してしまいます。必要性に合わせて迅速に状況に対応をしなければなりません。このようなビジネス環境においては、最低限の約束事と大枠を作ってしまえばすぐに走り出せて、走りながら現場レベルで改善を図っていけるAsanaの特徴は大変心強いものだと感じています。

知識の創造の場としてのAsana

これまではAsanaの導入効果は主に削減時間で語られてきましたが、今回の取り組みをの経験からAsanaの別の価値にスポットライトを当てたいと思います。それは、Asanaを使って集約される「知識」です。SECIモデルの提唱者として知られる野中郁次郎氏は著書『知識創業企業』の中で、企業の競争力の源泉は技術やノウハウ、個人の創造性、組織の革新性といった「知識」であるとするいくつかの議論を紹介しています。私は、Asanaを使用することが知識創造に貢献できると考えています。今回の私たちの実験的なプロジェクトをSECIモデルのプロセスになぞらえるとしてみましょう。

SECIモデルは、個人の暗黙知を組織の形式知に変換し、新たな知識を創造するプロセスを表します。共同化、表出化、連結化、内面化の4段階を循環させ、組織の知識を継続的に発展させる枠組みです。今回の取り組みにおいては、日々の業務であるタスク中で現場で働くCSMの暗黙知がメモや会話のコメントとして記録され、コラボレーターは時間差なく体験の共有ができます。そして、暗黙知が経験を通して徐々に言語化され形式知となります。そして異なる形式知が組み合わさって新たな知識となります。最後にその知識がAsanaのプロジェクトの運用に還元されることで習得されていきます。結果として、Asana JapanのCSチームでは、シンプルな利用データに基づいて導入チームの現在の実際の状況を精度高く推測できるようになってきています。『知識創造企業』の中では様々な企業の知識創造の事例が共有されていますが、決して一朝一夕で真似できるものではありません。しかし、Asanaを使っていれば、日々の業務をAsanaに乗せ、使い続けるだけで自ずと知識は創造されていきます。タスクがゴールやポートフォリオに紐づいていることで、見える化のピラミッドは知識のピラミッドとなっていきます。メールやチャットツールのダイレクトメッセージに暗黙知を垂れ流した場合と、Asanaに集約した場合の獲得できる知識の差を想像してみてください。現場の方々の知見を集約し、そこから得られたインサイトに基づいてプロジェクトやゴールを立ち上げてチームと目標を達成していく。そんな組織で働く全ての人達の知識が活かされ、組織への貢献を感じながら生き生きと働ける世界をAsanaで実現したいと思っています。

Asana AIが加速させる組織の知識創造

Asanaを活用した知識創造のサイクルは、Asana AIの登場によって既に新しいステージに入っています。具体的には以下のようなことが実現可能になっています:

暗黙知の形式知化の加速

  • AIが日々のコメントやメモから重要なインサイトを抽出
  • 断片的な情報から、ベストプラクティスやリスクパターンを自動的に整理
  • チーム内での暗黙知の共有と学習がより効率的に

知識の再利用と進化

  • 過去の成功事例やノウハウをAIが状況に応じて適切に提案
  • 似たような課題に直面したときの過去の対応策を即座に参照可能
  • チームの経験値が組織の資産として蓄積・活用

これらの効果を最大限に引き出すために、私たちは以下のような点を意識しています:

  • 日々の気づきや学びを、たとえ些細なことでもAsanaに記録する習慣づけ
  • チーム内での知見共有をAsanaのプロジェクト上で積極的に行う
  • 定期的にチームで振り返りを行い、蓄積された知識を整理・活用する

私たちの経験からも、このような小さな一歩の積み重ねが、やがて組織全体の大きな力となることを実感しています。皆さまも、ぜひAsanaを知識創造の基盤として活用することから始めてみてはいかがでしょうか。

最後に

最後に、この荒削りな取り組みに共に協力してくれて、実際の業務の中でプロジェクトを存分に活用し、知識を共創してくれたチームのメンバーに感謝を伝えたいです。メンバーの協力なくしては、このプロジェクトは机上の空論でしかありませんでした。仕事の中で、信頼できるメンバーとAsanaを使ってスムースに物事を進められることほど気持ちの良いことはありません。

もしこの記事の取り組みに関して興味のある方がいらっしゃいましたら、担当のCSMか私にお問い合わせください。実際のプロジェクトはお見せできませんが、どのような設定をしているか詳しくご紹介できます。

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いつもお世話になりっぱなしの刈谷さん投稿!「知識の創造の場としてのAsana」いいですね!ぜひそのように使えていけるように精進します :grinning:今後とも色々教えてくださいませw

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刈屋さん、すばらしいノウハウの共有、ありがとうございます!!
いいねが一回しか押せないのがもどかしいです。

  • Aasnaを情報のハブとして使っていて、まさに製品コンセプトを体現している
  • アクションのトリガーになってる
  • 完璧な仕組みをつくるよりも、目の前の仕事で使えることを優先している
  • 現場の直感を活かす仕組みにしている
  • ついでに、私の契約管理にも使えそうな気がする

とすばらしい点が満載で感動です!

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@Takeshi_Kariya さん
Asanaプロジェクト、とても興味深い仕組みですね。
当方で検討中の引合管理の仕組みに、参考にさせて頂きます。

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@Takeshi_Kariya さん、

素晴らしい投稿をありがとうございます!
フォーラムマネージャー (@Shun_Sakurai) として働いていたときに、Takeshi さんの独り言を間近で見ていました。気軽にコメントしていくことで、後々助かることは多いですよね。

「ヤバい」や「嫌な予感がする」
ノウハウや苦労、失敗
走りながら現場レベルで改善を図っていける

こういう有機的な、不確定なものを扱えるAsanaはいいですよね!
ワークマネジメントツールなどというと真面目な仕事に関するコメントをしないといけないように思いがちかもしれませんが、空気感や雰囲気は大事だと思います。

Asanaの導入効果として、無駄がなくなるとか効率が上がるということをアピールすることが多いですが、その理由は「知識」を発展させて「チームの脳」をつくれるからなんですよね。忘れないようにしようと思います :brain:

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